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鳥取地方裁判所 平成2年(ワ)29号 判決 1991年1月30日

原告

田中和枝

右訴訟代理人弁護士

松本光寿

被告

右代表者法務大臣

左藤恵

右指定代理人

工藤真義

外六名

主文

一  被告は原告に対し、金二〇九万円を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを五分し、その三を原告の、その余を被告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一申立て

一被告は、原告に対し、金五二二万円及びこれに対する平成二年一月一日から完済まで年六分の割合による金員を支払え。

二訴訟費用は被告の負担とする。

三仮執行宣言

第二事案の概要

一原告は、以下の交通事故により傷害を被った。

1  発生日時 昭和五九年三月二四日午後六時五五分頃

2  発生場所 鳥取県岩美郡国府町大字宮下三一三番地先路上

3  加害車両 不明

4  運転者 不明

5  被害者 原告

6  事故類型 人対車両

7  事故の態様 鳥取市岩倉方面から国府町町屋方面に向けて進行していた加害車両が、道路左前方を対向歩行していた原告に衝突し、同人をはね飛ばした。(<証拠>)

8  事故の結果 本件事故により、原告は、入院治療二四〇日、通院治療三月(治療実日数二一日)を要する左脛骨膝関節内骨折、顔面挫創等の傷害を受け、同傷害は昭和六〇年二月二日症状固定したが、左膝については、正座不能、しゃがみ込み・階段昇降等困難などの、顔については醜状を残す後遺症がある。

二本件請求に至る経緯

1  自動車安全運転センター鳥取県事務所長発行の「交通事故証明書」には、西尾寿男と原告が事故当事者として記載されていた。

2  原告は、昭和六二年一一月二〇日西尾寿男を相手に、同人を本件事故の加害者として損害賠償請求訴訟を提起(鳥取地方裁判所昭和六二年ワ第一五六号損害賠償請求事件)するとともに、国に対しても訴訟告知をなした。

3  右事件については昭和六三年一二月二三日判決の言渡しがなされたが、同判決では西尾寿男が本件事故の加害者とは認められず原告の請求は棄却され、そして同判決は昭和六四年一月七日確定した。

4  原告は、平成元年二月六日付けで、運輸大臣に対し、原告の前記後遺障害について、自賠法七二条一項の損害填補を求める請求(以下損害填補請求という)をなしたところ、運輸大臣は平成二年一月二四日付の書面で、消滅時効の成立を理由に右請求を却下する旨通知した。

三争点

1  原告の後遺障害の等級が全体として九級相当となるか。

2  原告の自賠保障事業への損害填補請求権が時効により消滅したか。

第三争点に対する判断

一後遺障害等級について

証拠(<省略>)によれば、原告の後遺障害等級は一二級であることが認められ右認定に反する証拠はない。原告は日常生活に支障を来す障害がある旨のべるが、これは、右等級の判定を左右するに足る事情とは解されない(<証拠>)から上記判定を覆すに足りず、他にこれを左右するに足る証拠はない。

そして、後遺障害等級一二級に対する保険金の額は二〇九万円である。

二時効について

1 被告は、原告の傷害は昭和六〇年二月二日に症状固定し、同日から請求権の行使が可能となったものであるから、その翌日である同年二月三日から時効期間が進行を開始し、昭和六二年二月二日の経過により時効が完成した旨主張している。

2 よって検討するに自賠法七五条は保障金請求権の消滅時効の期間を二年と定めているが、右時効の起算点については規定していない。そこでこれについては民法の規定が適用され、原則として「権利を行使することをうる時」から進行するものと解される。

3 ところで、政府に対する填補金請求は、いわゆるひき逃げあるいは無保険車の場合など、本来の自賠責保険金の支払が得られない場合に限り補充的に許容されるものである。そのため自賠法七二条にはひき逃げについては、これを証するに足りる書面の添付が必要である旨規定されている。現実にはその書面としては「交通事故証明書」の提出が必要とされている。本件においては、前記のとおり、センター発行の「交通事故証明書」には、当事者として西尾寿男が記載されていたのであるから、この記載の変更がないかぎり、被害者としては証明書記載の当事者を相手に賠償を求めるかあるいは「交通事故証明書」に代わるべき証明力のある文書を入手することが必要であり、右が入手されるまでは填補請求には、法律上の障害があるといわなければならない。

原告は前記のとおり当事者として記載されていた西尾寿男に対して損害賠償及び自賠責保険金の請求をなしており、自賠責保険金の支払いを拒絶されてから訴訟を提起して、上記内容の判決を受けたものである。

以上の経過に照らせば、原告は、同判決が確定した時に初めて損害填補請求に要する「交通事故証明書」に代わる公的証明を得たといいうるのである。

そうだとすると、右判決確定により本件填補金請求には法律上の障害がなくなったものであるから、時効の起算点は同判決確定の日の翌日の平成元年一月八日であるというべきである。

三損害填補請求権は、自賠法により新たに創設された請求権であって、公法上の請求権であると解されるところ、右請求権についてはその支払期日及びそれを徒過した場合の損害金を付して支払うべきことを定めた規定はない。したがって填補請求権者には、遅延損害金を求める権利はないと解するのが相当である。

(裁判官 前川豪志)

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